広教ニューズレター Vol.44
判断する力を育てる
鹿児島市の教育DXと情報モラル
教育DX担当部長
木田 博 先生
鹿児島市は、文部科学省の「教育DXを支える基盤的ツールの整備・活用事業」の実証自治体に指定されるなど、教育DXを積極的に進めている自治体として、全国的にも知られています。鹿児島市が重視する情報モラル指導とその未来について、お話しいただきました。
学習者中心の学びへ
教育DXを進める鹿児島市では、学習者中心の学び、いわゆる「個別最適な学び」へと授業が変わり始めています。子供一人一人が学び方や学ぶ内容等を自分で選択しながら学習を進め、先生はその様子を正確に見取り、一人一人に合った指導や支援を行っています。
こうした個別最適な学びを進めていくには、子供たち自身が計画を立てて課題解決を進めていく力や、デジタル学習基盤を安全かつ効果的に活用する情報活用能力(情報モラルを含む)が欠かせません。
「デジタルツールの操作スキルがアクセルで、情報モラルがブレーキと捉える見方もありますが、情報モラルはブレーキではなく安全装置です」と、鹿児島市教育委員会 教育DX担当部長の木田博先生は指摘します。最近の自動車には、スピードを制御したり、接触しそうな時に警告を発したりするなど、様々な安全装置が備わっています。情報モラルも同様に、「自分や他者を守りながら、社会の中を安全に走っていくための力です」と、木田先生は説明します。
鹿児島市ではこの考え方を大切にしながら、子供たち自身が考え、判断できるようになることを目指し、情報モラル指導を行っています。
「生成AIの活用も注目されていますが、仕組みをよく理解しないまま使ってしまうと、よくわからないから怖がったり、何でも叶えてくれると錯覚して依存してしまいます。新しい技術についても理解を深めることで、判断力がつき、自らの学習にとって望ましい使い方ができるようになります。また、『事例で学ぶNetモラル(以下、本教材)』は時代に合わせて有効な事例を追加してくれるから、使いやすいです」と木田先生は語ります。
情報貰モラルにまつわる
4つの課題を
『事例で学ぶNetモラル』で解決
学校ICT推進センター指導主事
嶺山 保記 先生
木田先生 ー
しかし、情報モラル指導には課題があります。一つ目の課題は、注意喚起をするだけでは、子供の行動に結びつきにくい点でした。なぜそれが重要なのか、守らないとどのようなリスクがあるのかを理解していなければ、正しい行動にはつながりません。
こうした課題に対してエピソード記憶が有効です。大切な事柄やその理由、そして守らなかった場合に起こり得る事態を、具体的なエピソードとして学ぶことで記憶に残りやすくなり、似たような場面に直面した時に適切な判断ができるようになります。本教材は事例をエピソード形式で学べるようになっており、子供たちの記憶に残り、判断力を育成する助けになりました。
嶺山先生 ー
二つ目の課題は、情報モラル指導の成果を可視化しづらい点でした。
本教材を用いることで、誰がどの事例を学習したかや、『NetモラルCBT』によって一人一人の理解度を数値化できるようになりました。それを見て、教師が適切な指導をできるようになりました。
木田先生ー
三つ目の課題は、授業準備の負担が大きい点でした。
情報モラルを指導しようとしても、適切な教材を探すのに時間がかかり、先生方の負担になっていました。本教材には、授業で使いやすいように指導案などが用意されており、先生方の負担が軽減され、授業づくりや発問の検討に時間をかけられるようになりました。
嶺山先生ー
四つ目の課題は、保護者への啓発も必要となる点でした。小学生でも携帯電話を持つことが珍しくなくなった今、学校と家庭が連携して情報モラルを育てていくことが重要になっています。鹿児島市では、PTAの会合などで本事例を活用したり、家庭で親子一緒に視聴していただくことで、保護者の学びにもつながっているようです。
ポジティブな
情報モラルが
子供たちの世界と
可能性を広げる
「子供が加害者にも被害者にもならないために、情報モラル指導はますます重要になる一方で、『こう使うと危ない』というネガティブな側面の指導だけに偏ると、禁止事項が増えるばかりで授業が活性化しなくなってしまうため、情報技術のポジティブな面も、しっかり伝えていきたいです」と、木田先生は強調されます。
その取り組みの一つが、鹿児島市が毎年開催している「デジタルスキルコンクール」です。CG部門、プレゼン部門、タイピング部門などが設けられ、子供たちがデジタルツールを使って制作した作品や、身に付けたスキルを披露する場となっています。
今後は、デジタルスキルコンクールにネットモラル部門を新設し、学校ごとの取り組みを評価することも予定されています。
「デジタルツールを正しく使えば、子供たちの世界や可能性を広げることができます。学校教育でも、子供たちがデジタルツールを使って個性を発揮できる機会を増やしていきたいです」と、木田先生は語ります。
子供たちに正しい判断力と、デジタル社会で安全に活躍できる力を育む鹿児島市の取り組みは、今後の情報モラル指導の方向性を指し示していると言えるでしょう。


