広教ニューズレター Vol.45
「人への教育」と
意識改革で進める
前橋市の校務DX

学校教育課 ICT 専門員
折田 一人(おりた かずと) 先生
前橋市では、2026年度から境界型ネットワークの校務環境を、クラウドベースのゼロトラストネットワークを用いた次世代校務支援システムへ移行し、校務DXを進めています。
そこで重視しているのが、システム整備だけでなく、教職員一人一人の理解と行動を支える「人への教育」です。前橋市教育委員会 学校教育課 ICT専門員の折田一人先生に、その考え方と実践について伺いました。
校務DXで目指す、
三つの未来
前橋市が校務DXを進める理由は、大きく三つあります。
一つ目は、校務の効率化を図り、先生が子供たちと向き合う時間を増やしたいという思いから。二つ目は、学校や職員室だけでなく、教室でも、自宅でも、出張先でも、状況に応じて柔軟に働ける環境にしたいから。三つ目は、今後を見据えたデータ活用により、これまで先生方の勘や経験に頼っていた指導を、一人一人に合った指導に反映したいからです。
こうした新しい校務環境へ移行した背景には、従来の境界型ネットワークが、結果として先生方にとって使いにくい環境になっていたという課題がありました。しかも、その境界型ネットワークは完全に安全というわけではなく、新しいセキュリティリスクにも十分対応しきれなくなってきていました。
そこで前橋市では、クラウドベースのゼロトラストネットワークを用いた次世代校務支援システムへと切り替えました。クラウド上で安全性を確保しながら、必要な情報に柔軟にアクセスしていく仕組みです。
2026年4月から運用を開始していますが、先生方からも、ネットワークの切り替えが不要になったことや、保存領域が大きくなりクラウド上にデータをまとめられるのが便利だという声が出てきています。
「新しい環境」を
安全に活かす、
確かな 「人への教育」
しかし、ゼロトラストネットワークは、クラウドベースで便利になるからこそ、「人への教育」がいっそう重要になります。 たとえば、クラウド上のどこにデータを置くのか、誰が見られるようにするのかといったことを、一人一人が常に意識して使わなければなりません。なぜそれが重要なのかを理由も含めて理解し、ルールを守っていく必要があります。
そこで前橋市では、先生方に新しい環境を安全に使ってもらうため、研修会や説明会など、様々な学びの機会を設けています。
一方で、集合研修を増やしすぎると、先生方の負担が大きくなり、働き方改革にも適していません。先生方の負担を抑えながら、伝えるべきことはしっかり伝えるための手段の一つとして eラーニングを活用しています。
学校現場に特化した
eラーニング教材を活用する
前橋市では、2025年6月に「事例で学ぶ 学校情報セキュリティ」を導入しています。
情報セキュリティの研修教材はたくさんありますが、ほとんどは一般企業向けです。その点、この教材は学校現場で本当に起こりそうな事例が具体的に示されており、先生方が自分ごととしてとらえ、腑に落ちる 形で理解できます。著作権への配慮など学校現場特有の課題が幅広く扱われていて、体系的に学べる点も魅力でした。動画を視聴した後にチェックテストがあるので、「見ただけ」で終わらないのも、大きな利点です。
また受講履歴を確認できるので、管理職は先生方一人一人の学習状況を、教育委員会は各学校の学習状況を把握できることも、大きなメリットだと感じています。
ゼロトラストネットワークを導入する前の2025年度は、最低限知っておいてほしい著作権、個人情報など、まずは基礎となる内容について、すべての先生方に受講をお願いしました。実際に新しいシステムへ切り替わった2026年度は、パスワードの管理やクラウド上での情報共有といった、 よりステップアップした内容を受講してもらっています。負担にならないように教材 はできるだけ絞り、隙間時間で無理なく受講してもらいながら、自主的にさらに学び たい先生には自由に受講してもらう形にしています。早い先生は、どんどん受講を進めています。
先生方の反応からも、手応えを得ています。指導主事の間でも、「やってみたら難しかった」「分かっていたつもりだったが、そういうことだったのかと理解できた」といった声が出ています。管理職の先生方も、「とても大事な内容だから、すべての先生に見てもらう必要がある」と、あらためて情報セキュリティについて基本から学び直す必要性を再確認しています。
教育界全体の大きな転換期と、前橋市におけるシステム刷新という変化に合わせ、これからはクラウドと生成AIを活かし、機械に任せられる校務は機械化することで効率化し、授業改善や子供への支援に力を注いでいく新しい学校教育のあり方を目指して歩みを進めています。
先生や児童生徒、そして保護者までもがクラウドで繋がり「共に安心して子供を育てる環境」を作ることを真のゴールだと考えます。
どんなに高度なシステムを構築しても、最後は使う人次第だからこそ、何よりも重要となるのが「人への教育」です。前橋市では、この確かな土台をもとに、ベテランから若手までどの先生にとっても、質の高い教育を行うことができる学校現場を目指しています。


